ベルギービールを深く知る。【歴史・特徴編】

いろんなビールを知る

みなさんはベルギーのビールを飲んだことはありますか?日本で人気の銘柄だと「ヒューガルデン・ホワイト」などが挙げられますね。

ベルギーには1500種類を超えるビールがあると言われており、日本にも同程度のビールが存在していると推定されています。しかし驚くのはその国土面積で、ベルギーはなんと日本の1/12、九州の約70%の面積なのです。つまり単純計算で日本の12倍のビールがベルギーにはあるということ!今回はそんなビール大国ベルギーの魅力たっぷりなビールの歴史や特徴などをご紹介していきます。

ふたつとない味

日本のビールで育った私達は、「ピルスナーなら大体こういう味」とある程度の指標があり、味わいを想像することが出来るかと思います。もちろんメーカーによってその味わいに違いはありますが、それはすべてピルスナーなどのスタイルの中でのお話です。

しかしベルギーの醸造家達はそんな「◯◯ならこういう味」という、スタイルの壁を突き破ったビール造りをしています。彼らがビールを造る際に大切にしていることは、「多様性」や「個性」、「ユニークさ」なのです。

そんなベルギービールは麦芽やホップのみならず、スパイスやハーブ、果実を巧みに駆使して造られています。その組み合わせはまさに無限大で、醸造家たちは閃きやテクニック、経験などで様々な香りや味わいのビールを造り出すのです。

彼らはみな口を揃えて「ベルギーには同じ味のビールはふたつとない」と自信を持って断言しています。それは全くその通りで、同じスタイルでもブルワリーによって味が全く異なりますし、実はベルギービールにおいてスタイルはあまり味の指標にはなりません。

しかしベルギービールの凄いところは、そんなビールの概念を覆すような醸造を行っているにも関わらず、どのビールも非常に完成度が高いことです。もちろん味の好みなどはありますが、どれもひとつの「作品」として高いクオリティに仕上げられていると著者は思っています。

ちなみに他のビール大国であるドイツイギリスでは、長い歴史のなかで確立されたスタイルを忠実に守って造り続けています。特にドイツでは「ビール純粋令(※)」によって原料が限定されていることもあり、普遍的であることを一番に大切にしているのです。

※ビールは大麦・ホップ・水・酵母のみで造るべしという条例

ベルギービールはクラフトビールの起源

いまやクラフトビールが流行しブルワリーごとに味わいに個性や特徴がありますが、ベルギービールはビールの本場と言われているドイツやイギリスと肩を並べるほどの歴史を持ち、そしてはるか昔からそのような個性的かつ完成度の高いビールを造り続けている、まさにクラフトビールの起源と言えるでしょう。

そんなベルギービールの文化は2016年にユネスコ無形文化遺産に登録されていて、ベルギービールは単なる飲み物ではなく、ベルギーの文化や歴史の一部として捉えられているのです。

エールビールとラガービール

ベルギーはピルスナーなどのラガービールではなく、エールビール造りにこだわってきた国です。代表的なものは以下の通りです。(次回の記事で詳しく解説します。)

(下線があるものはクリックするとスタイル図鑑に飛びます。)

もちろん日本で最も主流であるピルスナーなどのラガービールもありますし、実はベルギーでもピルスナーの消費量が一番多いのです。その理由は飲料水の代わりや「くぅーッと一杯!」やりたいときに、ピルスナーはアルコール度数が低く迅速に爽快感を得るのに最適だからです。喉を潤すのにどっしりとしたエールビールは選びませんものね。

ラガービールは爽やかでスッキリとした味わいが特徴です。
反してエールビールはコクがあり芳醇な香りが魅力的なビールです。

4種類の発酵方法

ベルギービールには4種類の発酵方法があり、この発酵方法の多さは世界でベルギービールのみだと言われています。これによって醸造家たちはさらに多様なビール造りを行うことができるのです。

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

(1)下面発酵

下面発酵酵母(ラガー酵母)を使用し、5℃程度の低温で1週間程発酵させる。そのようにして造られたビールをラガービール/下面発酵ビールと呼び、スッキリとしていて爽快な喉越しが特徴。日本の大手メーカーのビールは主にこのラガービールです。


(2)上面発酵

上面発酵酵母(エール酵母)を使用し、25℃程度の常温で3〜4日程発酵させる。そのようにして造られたビールをエールビール/上面発酵ビールと呼び、豊かな香りとコクが特徴。


(3)自然発酵

空気中に浮遊する野生酵母や微生物を使用して自然に発酵させる。そのようにして造られたビールは野生味や酸味があり、ランビックビールが代表的。


(4)複合発酵

様々な酵母や微生物、発酵方法を組み合わせて醸造する。上面発酵ビールをオーク樽で1年以上寝かせて乳酸菌で再発酵させたあと、若い上面発酵ビールをブレンドして造られるレッド・エールがメジャー。

世界に知られざるベルギービール

そんなベルギービールが世界に知られるようになったのは、なんと20世紀半ばのつい最近のことです。それどころかベルギーにビールがあることすらあまり知られていませんでした。

初めて外国人がベルギービールを知ったきっかけは、1957年にベルギーがEC(現在のEU)に加入しベルギーの首都ブリュッセルにECの本部が置かれたことです。人々がブリュッセルへと集まり、そこでようやくベルギービールと出会いその美味しさにみな驚愕しますが、彼らはこっそりとひとり(もしくは仲間内)で楽しむだけで、世界へと発信されることはありませんでした。

もうひとりのマイケル・ジャクソン

しかしこの後転機が訪れます。それはイギリスのビール評論家マイケル・ジャクソン氏によって1980年はじめに出版された書籍「The World Guide to Beer」でした。彼は書籍の中でベルギービールの魅力を紹介し、また彼が主演するビールのドキュメンタリー番組でもベルギービールを一番最初に取り上げます。極めつけはベルギービールだけにフォーカスした「The Great Beers of Belgium」を出版したことで、これにより世界中にベルギービールの名を知らしめることとなったのです。

特にアメリカのクラフトビールブルワリーに大きな影響を与え、特にベルジャンホワイトやストロングゴールデンエールなどのスタイルを醸造する試みが始まりました。

あの「マイケル・ジャクソン」とは全くの別人!
本人も「私は歌ったり踊ったりしませんよ」と挨拶の度に言っているのだとか。

ベルギービールの魅力

「個性的なビール」と言われても想像しにくいかと思いますので、面白いベルギービールをひとつご紹介します。

Tête De Mort Amber
(テットゥ・ド・モール アンバー)

以前とある酒屋さんでこちらのビールを見つけました。原料を確認してみると(著者は買う前に原料を見る癖があります。)

小麦、オレンジピール、コリアンダーシード…

なるほど、ベルジャンホワイトかしら。でもベルジャンホワイトにしてはアルコール度数が高いし、「アンバー」ってことはアンバーエール?でも原料的にアンバーエールとは思えない…などとぐるぐる考えながら原料の続きを見てみると、リコリス、アニスとの表記。

なるほど、飲まなきゃわからん!

と思い速攻で購入。しかし買ってすぐのビールは振動等でコンディションが悪くなっているので、冷蔵庫で一晩程静置させるのがセオリーです。

早る気持ちを抑え、ついに翌日栓を開けグラスに注ぐとなんと褐色。(瓶も褐色だったため全く気が付きませんでした。)

一瞬のフリーズの後、とりあえずベルジャンホワイトではないことを確信し、だったらやっぱりアンバーエール?でも原料が…とドキドキしながらいただいたそのビールは、お花のような甘い香りでキャラメル味、かすかなオレンジピールの爽やかさ、ホップの苦味、そして鼻から抜けるリコリスとアニス。フルボディながらも飲みやすく、するするいけちゃうこのビールは……結局一体なんなのだ?!飲んでもわからん!でも美味しいことだけはわかる!!

そうですこれこそがベルギービールの真髄、「スタイルを意に介さないビール」なのです。こんなにもわくわくさせられるビールを著者は他に知りません。

後ほど詳しく調べたところ、このビールはやはり【アンバーエール】、もしくは【スペシャルビール】に属するそうです。スペシャルビールとはどのスタイルにも属さないビールを指しますが、ベルギーにはこんな奇想天外なビールが盛り沢山なのです!

デュボック テットゥドモール トリプルアンバー 330ml | すがや魅惑の麦酒

Tête De Mort Amberはアマゾンや楽天では在庫がありませんでしたが、「すがや魅惑のビール」というネットショップではまだ買えるみたいです。URLを貼りますのでご興味あれば覗いてみてください。

著者お気に入りのベルギービール

Lindemans FARO

(リンデマンス ファロ)

Lindemans Pece

(リンデマンス ペシェ)

日本でも買えるランビックです。先でも少し触れましたが、ランビックは野生酵母で醸造したビールで詳しくはスタイル図鑑のランビックの項をご参照いただけたらと思いますが、ランビックと言えばやはりリンデマンス醸造所のものがオススメです!特にファロやフルーツ・ランビックは飲みやすく造られていて華やかな香り、見た目、味わいでお祝いの日にもピッタリです。リンデマンスの専用グラスが付いた飲み比べセットもあるみたいなので(ファロ、クリーク、フランボワーズ、ペシェの4種!)ご興味あればぜひ。


思いの外長くなってしまったので今回はこのへんで。次回はベルギービールの種類などについてご詳しくご紹介したいと思います。

ではまた!

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