クラフトビールを深く知る。【歴史編】

以前の記事「クラフトビールの定義はあってないようなもの。」からお読みいただくとより分かりやすいかと思います。

クラフトビールとはどんなビールか

みなさんはどんなクラフトビールがお好きですか?現代のクラフトビール市場を見ていると、醸造家の方々の創意工夫溢れるオリジナルなビールが求められているように感じます。著者は以前「ティーマサラ」というミックススパイスが入った【ポーター】(イギリスロンドンの伝統的な黒ビール)を飲んだことがありますが、それはとても目を見張るものでした。通常のポーターには使われないスパイスを付与するというオリジナリティがあり、そして”きちんと”美味しいのです。むしろ普通のポーターより美味しいかも…なんて思ったりして、しかしこれってなかなか難しいことです。例えばパイナップルが入ったお味噌汁は奇天烈ではありますが、美味しいかと言われたら難しいですよね。まあこれはあまりにも極端な例ですけれども、とにかくパイナップルでも桃でもなんでも、入れところで美味しくないならそれはお味噌汁に失礼ですし(もちろんパイナップルにも。)、お味噌汁のことをなにも分かっていないのと同義です。それはクラフトビールにも言えることで、醸造家の努力と情熱と知識、そしてビールの伝統を重んじるマインドがないと決して美味しいビールにはなりません。そしてクラフトビールとは、そういったビールへの愛と伝統を尊重する気持ちから誕生したビールなのです。前振りが長くなりましたが、今回はそんなクラフトビールの歴史についてのお話をします。

クラフトビールの発祥はアメリカ

前回の記事でも少し触れましたが、クラフトビールの火付け役となったのは1971年にアメリカの伝統的なスタイル【カリフォルニア・コモン】を再現販売した「アンカー」という小規模醸造所でした。この【カリフォルニア・コモン】というスタイルは、ラガー酵母をエール酵母並の温度で発酵させたビールです。(ラガー酵母は通常0〜10℃、エール酵母は15℃〜25℃で発酵させます。)

ゴールドラッシュ時代(1848年頃)のアメリカは、まだまだイギリス風のどっしりしたエールビールが主流でした。そんななか、カリフォルニアに移住してきたドイツの醸造家ゴットリーブ・ブレクルが、さっそく自国から持ち込んだラガー酵母でラガービールを造ろうとしてあることに気が付きます。それは、カリフォルニアが非常に温暖な土地であるということでした。先にも書いたようにラガー酵母は通常低温で発酵させるものですので、温暖な土地では冷凍機なしにはラガービールを造ることは難しいのです。

しかしそんな冷凍機もない時代、その醸造家はどうしたかというとラガー酵母をエールくらいの温度で発酵させるというトリッキーな技法を思いついたのです。そうして出来上がったビールはエールビールのようなフルーティな香りを持ちながら、ラガーらしいスッキリとした爽快な喉越しを兼ね備えたまさに”いいとこ取り”なビールでした。

アンカー・ブルーイングの誕生

そしてこの新しいスタイルを造り出したブレクルは、1896年に古い醸造所を購入し「アンカー」と名付けると、いよいよニュースタイルビールのお披露目です。このビールは樽を開ける際にプシューッと炭酸ガスが蒸気のように噴き出すことから【スチームビール】と呼ばれるようになり、瞬く間に大人気となって数多くの銘柄が誕生したのです。

禁酒法時代を生き延びたアンカー

冷凍機が普及され始め、ラガービールが造られるようになってからもスチームビールの人気は衰えませんでしたがここで禁酒法時代が訪れます。(詳しくは過去記事をご参照下さい。)そして13年間の時が過ぎ、1933年にようやく禁酒法が廃止されたときにはたくさんの小規模醸造所が廃業に追い込まれており、スチームビールを造る醸造所はアンカーだけとなっていました。そんなアンカーもなんとか営業再開は出来たものの大手ビールメーカーの市場寡占化によって、日に日に売り上げが減少していきます。

アンカーを救ったフリッツ・メイタグ

いよいよ閉業に追い込まれた頃、アンカーに女神の手が差し伸べられました。その女神とは「フリッツ・メイタグ」というスタンフォード大学の院生で、彼は毎日のように通いの飲食店でアンカー・スチームを飲むほどの”アンカー好き”。そしてある日、飲食店の店主にこう告げられます。

「アンカーの醸造所は見といた方がいいよ。もうすぐなくなっちまうから」

メイタグはアンカー・スチームが消滅の危機にあると知り、すぐさま醸造所へ行きました。そして本人曰く「恋に落ちた」のだそうで、閉業寸前のアンカーを買収することを決意したのです。

実はメイタグはアメリカ洗濯機メーカーMaytagの御曹司であり、彼が保有していた家業の株を売ってそのお金でアンカーの株式の51%を取得、そして1965年から経営者としてアンカーの再建に取り組みます。そして6年の時を経た1971年、ついに創業当時のレシピを元に造り上げたスチームビールを販売するまでに至ったのです。

ところで今さらですが、スチームビールってなかなかイカした名前ですよね。なんだかSFチックな響きがあります。けれど正式なスタイル名は【カリフォルニア・コモン】だということに疑問を持った方もいらっしゃるのではないでしょうか?これには理由がありまして、実はメイタグが「スチーム」を商標登録したためにスチームビールにスチームという名が使えなくなってしまったからなのです。(なんてこった!)

大手メーカーへのアンチテーゼ

先に述べたように、禁酒法が廃止されてからは大手ビールメーカーが市場を独占していました。そんな大手が造るビールはライトタイプのピルスナービールばかりで、ビール愛好家達はそんな市場に飽き飽きしていたのです。そんななかアンカーから伝統的な方法で造られたスチームビールが販売されると、愛好家達は大いに喜び、新生アンカーは着々とファンを増やし醸造量も徐々に増えていきました。

そしてメイタグは【ポーター】【ペールエール】【バーレイワイン】【クリスマスエール】などといった、世界の伝統的なビールもどんどん造り出していきます。そんなメイタグの造るビールの興味深い点は、例えば小麦のビールだったら世界一小麦をたくさん使って造ってみるといった、伝統を踏襲するにのみならず独自性を加えているということです。さらには世界最古と言われているシュメール人が造っていたビール(当時は”シカル”と呼ばれていました。なんと5000年前の話です。)を再現してみたりと、ビールファンの心をくすぐるような商品をたくさん造り出していったのです。

またメイタグは「ドライホッピング」という技法も復活させます。ビール醸造においての”ホッピング”とはビールとなる液体にホップを投入することを指しますが、ホップにはビールの香りや苦味付け、さらには殺菌効果や清澄作用があり、製造過程のどのタイミングで投入するかでビールの味わいや香りが大きく変わってきます。

一般的には麦汁(麦芽を煮てそれをろ過した液体)の煮沸開始時に投入され、これはホップを煮沸することによりホップの苦味成分を抽出するのが目的で、”ケトルホッピング”と呼ばれます。

そしてドライホッピングというのは、ビールの発酵時やその後熟成させる際にホップを投入する手法のことで、ホップの香りを強く残したいときに使われます。ちなみにドライホッピング技法の登場は18世紀のイギリスで、当時イギリスの植民地であったインドにアルコール度数高めのペールエール(オクトーバービールとも呼ばれます。)を輸送する際に大量のホップを投入してみたところ、腐敗しないし強烈な香りが付いて美味しいじゃん!となり、これが今や世界中で大人気のIPA(インディアペールエール)の元祖なのです。

ホームブルーイングの解禁

さらには1978年にはホームブルーイング(自家醸造)が解禁され、ビール愛好家達もメイタグに続き大手ビールメーカーのアンチテーゼとでもいうように、伝統的なスタイルのビールや自分が飲みたいと思う独自性のあるビールを造っていきました。このメイタグの【スチームビール】から始まった伝統的、独自性のあるビールを醸造するムーブメントは、しだいにアメリカ全土へと伝播し一時はかなり減少してしまった小規模醸造所も右肩上がりに増えていき、そして彼らが造ったビールが「クラフトビール」として世界に広まっていったのです。

ちなみに…

大手ビールメーカーの市場独占は、実は過去の日本でも起こっていました。日本のビール市場がピルスナーばかりなところを見ると、なんとなく想像が出来ますよね。しかしそのお話は、また別の機会にでも。

ではまた!

今日の一杯

今回は冒頭で触れたティーマサラが入ったポーターをご紹介します。

HEIWA CRAFT PORTER

日本/和歌山県

製造 平和クラフト

清酒「紀土」やリキュール「鶴梅」を製造する和歌山県の酒蔵、平和酒造が手掛けるクラフトビールです。メインが清酒でビールは片手間なんでしょ?なんて思うなかれ。どれも高品質で純粋に美味しい、そしてユニークなビールの多いこと!杉で香り付けされたラガーや山椒が入ったエール、梅干しを使ったサワービールもあればIPAやペールエールは王道の味わいだったりして、楽しんで造っているんだろうなあというのがわかります。そして件のティーマサラ入りポーターの味わいは、そのスパイスの香りと焙煎した麦芽の風味、甘味、コク、あとちょっとホップの苦味が合わさって夜のリラックスタイムにピッタリ。ティーマサラが主張し過ぎず、とてもバランスのいいビールです。苦めのチョコレートでもかじりながら飲んでいただきたい一杯です。

そんなポーターも入った平和クラフトの飲み比べセットです。気になった方はぜひ。


\山椒入りのゴールデンエールもオススメ/


もちろん平和クラフトさんのオンラインショップからも買えます♬

平和クラフト 公式販売サイト
平和クラフトは、ビールの特長である気軽にごくごく飲めることや味わいの多彩さを伝えられるよう、誰もが美味しいと思う飲みやすいビールを目指して、日々醸造しています。清酒「紀土」、リキュール「鶴梅」を製造する和歌山県・海南市の酒蔵、平和酒造が2016年から取り組んでいるクラフトビールです。

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